小説『暴走する正義』~第1章

小説『暴走する正義』~第1章

はぁ~今日は現任だ、だから少し遅く起きても構わない。当然朝は早い、そして眠い。久しぶりの仲間に会える年二回の機会。

【解説】

警備業法で定められてる、新任教育、現任教育がある。警備業法により警備会社は雇用

する警備員に対して教育を受けさせることが義務付けられています。この教育を実施してない警備会社は法令違反となります。現職の警備員の場合、年度ごとに10時間以上甫教育を受けなければいけません。

~あぁマジでだりぃ~

朝からこの言葉しか出ない、給料はその分、一日分出るんだけどね・・・制服一式もって会場に向かう。つまり本社だ。世間ではマジで楽な仕事みたいな事言われている。でも実際は違うどの職業でもそんなもんだろう?いい面もあれば悪い面もある。とにかくがんじがらめだ(当然と言えば当然)、それも警察の下部組織みたいにみられたりもする。強制力がないのが一番の違いかな?実際、警察と似たような事するけど待遇含めてえらい違いだ。まぁ厳しい分、警察は僕らには優しいけどね。余程の犯罪犯さない限りは・・・・準備して電車に乗る為に駅に向かう。道路工事、建物の出入り口、銀行、スーパー、企業の受付入口、マンション、病院、鉄道会社、駅の配備。介護施設、学校、高校、大学・・・どこでもいる。

昨今、犯罪が多発してるから余計に目立つ。それだけ社会から期待されてるんだろうか?普通のオッサンばかりいるだけなのに?まぁ女性もいるが。こんなグレーな業界に?昭和初期に警備業界が発足して当初は警察の制服のお古でやっていたらしい。で警備員による犯罪が多発してから厳しくなった。一般人が誤解した事をいい事に色々やらかしたそうだ。恐喝、ゆすり、などなど。今日やる現任教育も年2回受講する決まりになってる、警備業法で決められてる。ホント面倒くさい。おまけに制服着ていくのはNG。通勤途中で事案発生すると一般人に誤解されるから御法度。

俺らからしたら現場の人間なら一度は思うはずなんで縛りが厳しいんだ?警察と一緒に仕事した奴の話を聴くと、偉そうな事言ってる奴に出くわして嫌な気分になったそうだ、全部が全部、警察官が嫌味な人種じゃないだろうが。会場近くまで来た、見知らぬ奴も知ってる奴も久しぶりに会う。『おっ、元気か?』『どこの現場行ってんだ?』『どうした?腰でもやったか?(笑)』いろんな古瀬が飛び交う。そして俺は懐かしい奴を見つけた。ミッツだ、唯一心許せる同期だ、年齢も同じって、だけだけどミッツは違う現場にいる。『オッ、シュンじゃん元気か?』『まぁな、そちらはどうだい?』眠気眼のまま他愛ない会話が弾む。『シュン、マンションにこないか?』『いやいや、ミッツこそ規則正しい暮らしをしろよ(笑)待ってるぞ』同期で年齢も近い息の合う相棒みたいな存在。現場は違うんだけどね。ミッツは商業施設じゃなくマンションの警備24時間体制の2交代。今日は雑談する相手に困らないな(笑)きっとお互い同じ事思っているだろう。会場で受け付けすましてテーブルに座る。全員同じ制服で座って共感が来るのを待っている。教官の加藤が入ってきた。まさに顔面凶器、いやその位迫力あるんだ、経験が顔に出てる。午前中は座学で午後が実技。いつも通りの流れ、でも座学で居眠りすると加藤にキレられる。

『平成11年度、前期現任教育を始める、一同、礼』加藤の合同と同時に起立して一礼する。1限目は全国で起きた過去の事例。加藤真一が自ら授業を行う、誰も眠れない、居眠りしたらキレられるのは有名だからだ。

【解説】

警備の仕事はざっくり大別すると4つに分類される。

1号警備・施設、商業施設など

2号警備・道路、雑踏警備業務

3号警備・貴重品、現金輸送

4号警備・身辺警護、要人警護

一般人が大抵目にするのは1~3号警備の関係者、4号は黒スーツ着て映画やドラマなどに出てくる。一番目立つのが4号だよね。来日したスターや有名人の警護とかもやる。僕がいる所は1,2号がメインの職場。これは新任教育で必ずやる。志望する動機は様々だ僕みたいに楽そうだから、軍人や警察みたいなのに憧れるとか労働時間に融通効くとか、女性(殆どおばちゃん)も来る。稼ぎたいからとか(昔ほど稼げないのに~誰に聞いたんだか?)色んなやつがいる。見た目と実際やるのは大違いな業界の一つでしょう。

この半年で、警備絡みの事故、事件などの詳細が加藤の口から語られてく。オフィスビルでの窃盗、スーパーでの従業員に対するパワハラ、工事現場での事故・・・。施設関連でやらかしたヤツの話を聴いてると、笑えない。防犯カメラは今の時代オフィスだけでなく商業施設は大概あるのに、窃盗をやらかす、それも小銭の為に。一般人がやるならまだしも護る側がやらかすから笑えない。おまけにこの世界、高齢者だらけで、時折世間から白い目で見られる。別に好きでやってる仕事じゃないが、ここまで世間が冷たい視線をむけなくてもいいでしょう、と言いたくなる。別に高い高収入で働いてる訳じゃないんだ。でも皮肉なことに全国の現場の警察官より、全国の警備員は多い。でも警察の下部組織の如くまぁ細かいし厳しい規則がある。そう全国の現場にいる警備員なら絶対同じ事思っているはず。殆どの場合警察から信用されてる場合が多いんだよね。一般人程お咎めはない(上の人は言われてるかもしれないけどね)。

休憩中ミッツに話しかける『なぁ、この業界ギャラは安いし決まりが多いさ、たまんないよな』『あぁまったくだ』『シュン、面白い話があるんだけどさ、機械警備最大手HAKOMの話なんだけどさ、高層マンションに入っていて住民から出動依頼があって駆け付けたら、住民は布団を落としたから探して欲しいと2人で探したらしいぞ』(笑)『制服に重装備でヘルメットで茂みに入ったのか(笑)そりゃ面白い、あそこ重装備だもんな~』(笑)そろそろ休憩が終る、次は法令の話だ。はぁ~

警備業法【解説】

第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、警備業について必要な規制を定め、もつて警備業務の実施の適正を図ることを目的とする。

メチャ簡単に言うと第三者の依頼により身体及び生命、財産を守る事で成り立ってます。って話を延々聞かされてく時間(涙)。有名なのが、借金ある人、逮捕歴ある人、未成年者、戸籍謄本が正しいか?全部、調べられる。他にも多々、規則がある。昨今SNSの普及、ネットで調べたら何でも出てくる時代。余計な事はやらかすと即、大問題になる。ここにいる全員が喋ってないけど頭の中から聞こえてくる~眠くなるぅ~

だりぃ~。

 

昭和全盛期の頃は稼げる職業、アルバイトとしても人気あったそうだ。昔ほど稼げる仕事ではなくなったが『社会的貢献度』は高い仕事だと思ってる。それがバブル崩壊と共に法令違反する警備会社が淘汰されていった。そして賃金は上がらないが社会的需要は高くなってる。それだけ治安が悪化してきてるからだ。

特に警備業法15条がやっかいだ。俺達は特別な権限がないから、他人の権利及び自由を侵害し、個人もしくは団体の正当な活動に干渉してはならない。って文言がある。

ミッツが声をかける『これさ、絶対、この業界の創業期やらかしたヤツ等の戒めで書かれてるよな、これの性でこの業界に入る人間が減ってんだろうきっと・・・シュンどう思う?』『同意するよ、おれもそう思う。』我々の業界を管轄するのが都道府県にある公安委員会が仕切り警察とも密接な関係している。それだけとことん縛りがある。

ボソッと『俺達はマゾじゃねぇぞ』ミッツがニヤリと笑う。教官が法律の話の間に雑談を挟む『お前ら、現場では絶対に英雄気取りになるなよ!ミッツがボソッと『誰がなるかよ』今度はシュンがニヤリと笑う。念を押したように教官が続ける。なぜ教官が口酸っぱく言うか現場にいる俺達にはよくわかる。

『判ってると思うが、絶対に正義のヒーロー気取りになるなよ!』

感情的になって辞めていった人間、問題を起こして解雇になった人間、配置換えになった人間、取引先を切られた警備会社などゴマンとそんな話があるからだ。一般人からしたら面倒な存在になる警備員。

“正義のヒーロー面してもこの業界全体が世間の冷たい眼差し”に晒されるからだ。例えるなら簡単に言うとサッカーのゴールキーパーみたいな仕事だ。失点に繋がるボールを阻止したらスタジアムの観客から喝采と拍手もらうが、ボールを後ろに逃すとヤジが飛んできてペットボトルが投げ込まれる。ゴールキーパーがサッカーのフォワードみたいに相手陣地のゴール前まで来てシュートは決める事はない(例外もあるだろうがまずありえない)。つまり黒子に徹しなさい、って事。

教官がある現場の実例話し出した。あるスーパーの現場にいた時道路の向こう側で工事をしていた。そこで警備員が一般ドライバーともめていた。関係者が集まる。向こうの関係者と教官は雑談する中だ。後日聞いたら、誘導棒が当たったとか当たってないとか?当事者じゃないから事実は解らない。その隊員は懸命に仕事していたと思う。でも雇い主から外してくれとか言われたんだろう?

シュンがいう『ホント、たまんない運が悪いよなぁ~』

『まったくだ、こんな理不尽な事はない』みな口々に怪訝な言葉出てくる

~そりゃそうだ俺達の正当性が認められる事は殆どない、俺達の雇い主の匙加減で全てが決まる、どんなに溶け込んでも取引先企業関係者と仲良くなっても失点(クレーム)一発で退場になるから。弁明しても通る場合もあるが、大抵は配置換えになりやすい。

教官が言う『だから君達も不特定多数の人と絡むだろうから、言葉遣い。振る舞い、行動には気を付けるように、誰に見られてるか解らないからな、昨今動画で何でも晒される時代だから気を付けるように!』

・・・・・・・・・・もうちょっとで昼休憩だ・・・・・・・・・・

教官が言う『あと施設やってる人は特に注意な、どこにでもカメラがあるって事忘れるなよ、折角この業界にいるんだからカメラが何処にあるか?施設の消防機器はどこにあるか?防災センターの場所、AEDの場所、把握しておくように』

教官は法律と社会の実情とこの業界の事件を交えながら講義してくれる。

はぁ~~、一日が長い、あと一時間やって昼だな!

『何故君達が現場に配属されて仕事が成立するかと言うと、現場にいる事で周囲のお客さんや歩行者、ドライバーに注意喚起させられる事により安全を守れる事が一つ、もう一つはなにか問題が起きた時、防犯カメラとか、映像だけでは分からない事でも当事者の意見として証言する事が大事だからだ』『警察沙汰になっても第三者的な視線で言質を取れる利点がありスムーズに事が進むメリットがある』

『成果出しても給料はあがらないんですよね』誰かが口を開く

『残念だが昨今、企業は儲かってない所が多いからな!だから君たちは失点を生まない様にな!』

昼飯の時間は思い思いに話してるがあっという間に昼は終わる。

昼が終ると午後は近所の公園で実技訓練だ、なんてことない、軍隊の真似事みたいな事をする。隊列を組む、集団行動だ。

右向け右、左向け左、前進、止まれ、別れ、別れます。誘導棒の振り方。車両の止め方。と多岐に渡る。昼飯を食べた後にやるのは効果的と考えたんだろう・・・集団行動と連帯の意識向上にはいい事の事だろう。当然現場でやらない。そりゃ異様な光景に見えるはずだからだ。よほどのことがない限り・・・この上なく恥ずかしいな~新人と思われる人間が小声で話す・・・~分かるよその気持ち~俺はミッツに目配せする。当然目配せしてはニヤリと笑う。実技は、加藤が行う。『おい、準備できたか?』周囲を見渡す加藤。近くにいた渡辺に話している。ヤツが基準なんだろう?あぁそうだ間違いない『渡辺警備士基準2列横隊に整列』と加藤の怒号が響くと渡辺が右手をグーのまま挙げて直立不動の姿勢になる。自然に列ができる渡辺の左側に皆、並びだすその時、左手は腰に手を当てて等間隔を保つ、アッという間に列ができる、こういう時新人、キャリアの浅い奴は見よう見まねで大抵後列になりやすい。前列と後列合わせて20人になる。『最初に方向転換を説明する、やらなくていいから俺の足元見てる様に』加藤がお手本を見せる。足元の開き約45度。『右向け右』と言ったら右足の踵を上げて左足の甲を上げて半回転して左足に揃える。左足の踵が軸に右45度回転する。そうすると、右方向に45度回転した向きに変る。左向け左はその逆だ。左足の踵が軸になるイメージだがこれが全員でやると揃わない、当然だキャリアある奴入りたてのヤツでは開きがあるからだ。当然フラフラする奴もいる。小学校とか中学校とかで体育の時間以来の奴もいるだろう、集団行動こそ大事だからだ。

そこで加藤が豆知識を教えてくれた『君たちの中にはなぜこういう集団行動するのか?

疑問に思う人もいるだろう、自衛隊が初めてイラクに派遣された時、世界中の軍隊が自衛隊が張ったテントを見た時に感嘆したそうだ、全部のテントの紐が縦列に並んだ時寸分の狂いもない状態を見て、“これだけ統率取れてる軍隊は士気が高く集団行動に優れているから安易に攻撃できない”と、集団での行動の統率力を測る指針、不文律になってるんだだから世界中の軍隊でも警察でも集団行動をとる時、みな同じ動きが出来るようにして訓練しているんだ』俺達は新人の思ってる事が即、想像出来た(笑)

~俺達は軍隊じゃねぇ、軍人じゃねぇ~(笑)気持ちは分かるよ、解るでもね現場で複数でやると君も理解する時がくるだろう・・・・きっと新人と思われる人は付いてくのに必死だ。少し崩れた形がまた加藤の号令で元に戻る。

『渡辺警備士基準2列横隊に整列』少しの間をあけて『右向け、右』『左向け、左』の号令がこだまする。通行人が見たらどう思うだろう?警備会社の制服着てなければ、軍隊マニアかイカレタ連中に見えるだろう。若い子からオジサンまでが必死に半回転している。少し汗ばむ頃、ようやく次に移った。加藤は年齢も少し上だろう、でもタフだ!それなりの修羅場を乗り越えてきた顔つきしている。時計をみたらそろそろ16時だ、17時には終わる予定だ、過去に時間延ばした事もあったが定時には終わるだろう!みんなの願いだ!だから皆真剣に取り組む。大抵終われば即解散する、翌日朝が早い者休みの者以外は大抵どこかの現場に配属されているからだ。次は誘導棒の振り方だ!大抵の者は何回も現任に参加してるから解っている。~あぁ帰りてぇ~言葉にならないけど顔に出てくる。新人も疲れているな(笑)まぁこんな世界にようこそ!位にしかいえない

俺も早く帰りたい。行進の練習をやってようやく終わった、空が暁に染まる・・・

はぁ、早く帰りてぇ~『おつかれぇ』が飛び交う。帰り道、駅に向かう途中俺はミッツに声をかける。『なぁ飯でも食って帰らないか?』『悪いな、用があるんだ、また今度メールでも頂戴、日程合わせよう』と駅のホームで別れた。

『おっ、そうかまたな!』と別れる。

ミッツはソーシャルネットワークアプリ『zin』を開いてみていた。そこには日本の政治家に対する不満、官僚に対する不満がびっしり書かれていた。